審査員総評

 HPAR2022(広島市ピースアートプログラム アート・ルネッサンス)開催、および入選・入賞の皆さんおめでとうございます。

 さて本展の応募状況について触れると、’21年がオンライン開催だったこともあってか、今年度の応募は最多の’20年に比べ約半分強となりました。アーチストの皆さんはそれぞれの環境で制作を継続していると信じますが、展覧会場で輝く自分や仲間の作品を実際に目にできない、アートルネッサンス独特のなんとも暖かな空気に浸ることができない寂しさが、応募への意気込みに影響はしたことでしょう。ただ応募数が減ったとはいえ入選作品の水準が下がるなどの影響はさほど感じられませんでした。

 21年継続している展覧会の応募作を多数見てきますと、いくつかの傾向が見て取れます。多少乱暴かもしれませんが私なりにケースに分類してみると(順不同)

 ①アーチスト個人で家庭・施設・教室などで一定の支援を受けながらアーチスト独自の取り組みを継続している。 

 ②アートに積極的に取り組む施設で、職員による利用者それぞれの特性や興味関心に沿った継続的な見守りや支援で、個性的な制作が進化している。

 >>①②にはいわばレジェンドのような方もいて、中にはすでにHPARを卒業し別のステージで活動しているケースもあります。 

 ③施設・学校において障がいの程度などを超え、複数人または多くの参加者の共同制作で比較的大型の作品が制作される。

 ④特別支援学校などの生徒の集団が、積極的な教員による授業で、同一メソッドや技法・テーマで個人の作品制作に取り組む。(生徒は卒業後の制作環境を確保できれば①や②のように個人制作をすすめるケースも多い。)

 これら4つのケースはおおむね本展に継続的に応募されることも多く、審査員の我々も年に一度の作品との再会で、制作の継続と作品の進化を喜ばしく思うところです。いずれのケースでも影響力のある熱心な教員や職員がいてパラアートの世界の隆盛を牽引してくれています。

 ⑤なお応募対象の年齢や地域が拡張される中で、新鮮な出会いも増えてきました。子どもたちやビギナーさん、キャリアのある方もいますが、我々審査員は未知の表現様式との出会いに新鮮さを感じますし、HPAR展リピーターの皆さんも新傾向の登場にワクワクされることも多いでしょう。

 それぞれのケースの注目作は本展においても多数あるのですが敢えて絞れば以下です。

 ①のケースは藤井将吾さんの「湧き出る風景」。家族旅行で訪ねた街の詳細な情景を独自のスタイルで描いています。 年々絵が緻密になり曼荼羅のような様相を呈してきています。

 ②のケースはコミュニティーほっとスペースぽんぽん佐野直美さんの「カラフル」。1,200余のマスをおそらく相当の時間をかけて一つ一つ丁寧にマーカーで塗り分けたこの作品は、織物のようでもあり大都会の夜の風景のようでもあり…見る者の心を映す鏡なのかもしれません。配色を決める際のワクワク感や最後の1マスを塗り終えた時の達成感やいかに、と想像を膨らませてしまいます。

 ③の場合は、コロナ禍の今年は共同制作が少なめですが、広島県立三原特別支援学校の小学部4・5年生の共同制作「躍動」です。サイズも彩りも様々な丸シールを、粗密を大切にしながら二重三重に画面全体に貼り込んでいて、宇宙を思わせるような奥行きの深い作品になりました。「ああしよう こうしよう」とコミュニケーションをとりながら楽しそうに制作している姿が目に浮かびます。 

 ④は広島県立三原特別特別支援学校の皆さんのアクリルによる作品群。幾重にも塗り重ねられた画面は堅牢で手応え充分です。今回も多様なヴァリエーションが展開しています。

④にも⑤にも当てはまる注目作は広島県立福山北特別支援学校の皆さんの「自画像」の作品群です。制作方法を推測するに、様々な角度からの作者自身の顔写真を使い、一つの顔の中に複数の向きの顔のパーツをトレースで描き込む技法で、いわば現代版キュビスムとも言えましょう。時間の経過を感じる視点のズレと表情の面白さに加え、マーカーなどによる濃密な色彩や荒々しいタッチも魅力的です。今後は絵の具などの別素材での展開も面白そうです。

 その他にもここで触れられなかった多数の秀逸な作品があります。皆さんそれぞれの審美眼そして心にはどの作品が響くのでしょう?何を描いているのかわからなくても構いません。美術品の値段を判定するような見方や絵を分析する専門知識など要りません。新しい服を買うような気分で、美味しそうなお料理をオーダーするようなつもりで、ぜひ皆さんの眼と心で堪能してください。理屈抜きに面白く、美しく、見るものの心を揺さぶるのがパラアートなのですから。

審査員 加藤 宇章 (アトリエぱお造形教育研究所 代表)